下部消化管疾患の解説

大腸ポリープ

ポリープとは何でしょうか。
ポリープはギリシア語のpolypous(多数の足をもった、タコ)に由来する言葉であり、大腸に限らず、粘膜の一部がいぼ状に盛り上がったものをいいます。
ポリープは盛り上がっていればすべてポリープと言われるわけで、必ずしも一つの病気を指しているわけではありません。
大きく分けて。腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープに分けられ、このうち非腫瘍性ポリープは加齢や炎症によるもので特に治療を必要としません。
一方で腫瘍性ポリープは腺腫性ポリープとよばれ、広義には早期癌を含みます。
大腸ポリープの80%は腺腫であり、これらは大腸癌の前がん病変といわれています。

原因は何ですか

遺伝
食事・喫煙

がんと同様、腺腫は遺伝要因と生活習慣などの環境要因とが絡み合って起こると考えられています。
前者は、一部に生まれつきポリープの非常にできやすい、あるいは若くして癌になる家系の人がいますが、その他にも多数の遺伝要因があるとされており、現状では全ての原因遺伝子が解明されているわけではありません。
後者では食事が重要であり、高脂肪・低繊維食が危険因子とされています。
また、喫煙も危険因子と言われており、非喫煙者に比べ、リスクが増加するとされています。

どんな症状が出るのですか?

小さなポリープはほとんど症状がありません。ポリープが大きくなると血便が起こります。ポリープの大きさや存在部位によって、便に鮮血(赤い血液)が付着する場合と、肉眼的には異常がなく、便潜血検査陽性で初めて血便に気づく場合があります。

どうしたら見つかりますか?
大腸ポリープの検査には以下の方法があります。
検査の精度と負担を天秤にかけ、もっとも適した検査を受けていただきます。

検査種類 検査の方法と特徴
便潜血検査 便を検査します。
簡単に検査ができ、健康診断などでもっとも頻用されている検査です。
しかし痔や裂肛などでも陽性になり、実際に病気があるのかどうかは下記の精密検査をしないとわかりません。
ポリープ、早期がんはこの検査で陰性になる場合があります。
注腸造影 下剤を服用していただき、検査は肛門から造影剤、空気を入れてレントゲン撮影をします。
検査と治療が2回に分かれてしまう、小さなポリープや小さながんなどは診断が困難な場合がある等の短所があります。
内視鏡検査を行えない場合などの補助的な目的に適しています。
内視鏡検査 下剤を服用していただき、大腸カメラを肛門から挿入して観察します。
小さなポリープ、がんも発見できる。検査と同時に治療を行える。

治療できますか?

腺腫性ポリープが疑われる場合には内視鏡切除が行われます。
ホットバイオプシー、ポリペクトミー、EMR(内視鏡下粘膜切除)、ESD(内視鏡下粘膜下層剥離)などサイズに応じていくつかの治療法がありますが、いずれも内視鏡から入れた鉗子やワイヤーなどに電気を通してポリープを焼き切る治療です。
ポリープの大きさや数によっては切除後に出血、穿孔などをする危険性があり、入院が必要になる場合もあります。
また、あまりにサイズが大きく、内視鏡での治療が難しいと判断された場合、また内視鏡にてポリープ切除後に手術が必要と診断した場合には腹腔鏡下手術、開腹手術などで腸を切る必要がある場合もあります。
大腸ポリープにつき気になることがあれば是非、当下部消化管外科にご相談ください。

大きなポリープは入院や手術が必要の場合も

大腸癌

大腸癌とは

大腸とは小腸で消化吸収された残りの腸内容物から水分を再吸収し、便をつくるところです。
大腸は盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸、肛門管から成り、いずれの部位の粘膜からも癌は発生します。
大腸癌は、大腸粘膜から発生し腺腫という良性腫瘍の一部が癌化して発生するものと、正常の大腸粘膜から直接癌が発生するものとがあります。比較的大腸癌の進行はゆっくりと言われております。
粘膜から発生した癌が進行するにつれ徐々に大腸壁の深部まで浸潤していきますが、粘膜下層までに留まっているものを早期癌(M癌、SM癌)、固有筋層を超えて浸潤しているものを進行癌(MP癌、SS癌、SE癌)といいます。
癌は進行するにつれ、リンパ節や肝臓、肺などの他臓器に転移をしてきます。

大腸癌とは

症状

早期大腸癌ではほぼ症状が認められないため、大腸がん検診等の便潜血検査で発見されることがあります。進行大腸癌になると以下のような自覚症状が出現してきます。

・便に血が混じる
・肛門から出血する
・下痢と便秘を繰り返す
・最近便秘がちになった
・便が細くなる
・排便後も便が残っている感じがする
・お腹が張る
・お腹が痛い
・お腹にしこりができる
・貧血が起こる
・体重が減った      など

右側の結腸では管腔が広く、通過する腸管内容も流動性であるために癌が大きくなるまで症状が出にくく、不顕性の出血による貧血や腹部腫瘤の触知等を契機に発見されることが多いです。また左側の結腸では右側の結腸よりも管腔が狭く、固形化した便が通過し、肛門にも近くなるため出血や便通異常といった症状が初発症状となることが多いです。

診断

大腸癌は、早期であればほぼ100%近く完治しますが、先に記した通り早期癌は一般的には自覚症状がありません。従って、無症状の時期に発見することが非常に重要となります。
では、早期発見のためにはどうしたらよいのか。まず区や市等で年に1回、40歳以上の住民を対象に行っている大腸癌検診や、健康保険などで受診可能な大腸癌検診を受診し、便潜血検査を行うことです。便潜血検査で陽性となった場合には早期にお近くの内視鏡検査が施行可能な医療機関を受診し、大腸内視鏡検査を受診することが重要です。
年間50万人以上の方が検診として便潜血検査を受診しており、そのうち便潜血陽性患者の、1~2%に大腸癌が発見されています。
仮に便潜血陰性であっても上記のような自覚症状が認められる場合には早めに大腸内視鏡検査を受けられることをお勧めします。

疫学

大腸癌は近年本邦でも生活の欧米化に伴い増加しており、最近20年間では大腸癌の罹患率は、結腸癌で3倍、直腸癌では約1.5倍にまで増加しています。
また最近の癌統計によると大腸癌は男女共に新規罹患患者は全癌中で第2位となっています。

発生原因

大腸癌はその一部に遺伝が関与しており、直系の親族が大腸癌の場合、その子供も大腸癌になる危険性が高くなります。中でも、遺伝子の異常を修復する働きを持つ遺伝子の異常によって発生する遺伝性非ポリポーシス性大腸癌と、大腸に極めて多数の腺腫が出来る家族性大腸腺腫症の家族歴のある方は特に50歳未満での大腸癌発生頻度が高くなることが知られています。このような家族歴を持つ方は年齢問わず積極的に大腸癌の検診を受けられることをお勧めします。
また本邦における急速な大腸癌罹患率の上昇は、近年の食生活の欧米化(高脂肪食・低繊維食)による影響が大きいと考えられています。さらに大腸癌発生の危険因子として、食事の他にアルコール、喫煙、肥満などが考えられています。
しかし、いずれも大腸癌の発生と明らかに関係性があると証明はされておりません。一方、運動は大腸癌予防に有用であるとされております。

治療

①内視鏡治療

早期大腸癌であれば内視鏡的に切除、根治が可能です。
しかし、まれに内視鏡切除後に組織診断の結果、癌の深達度が深く(粘膜下層まで達している癌)追加として腸管切除、およびリンパ節郭清が必要となることがあります。
これは、粘膜下層まで達した癌のうち、約1割でリンパ節転移を起こしてくるからです。

②腸切除術

高度進行大腸癌、高リスク群などを除き可能な限り腹腔鏡下手術を導入することで傷が小さく、負担の少ない手術が行えます。
また肛門に近い低位の直腸癌(図1)に対しては通常肛門を含めた腫瘍切除が必要となりますが、術前化学放射線療法などの治療を併用することで、可能な限り肛門を温存した手術が行えるようになってきております。

③化学療法

手術時のリンパ節転移症例、あるいは再発・転移症例に対しては化学療法が適応となります。
当科では手術のみでなく術後の補助化学療法、あるいは転移・再発等に対する化学療法を入院・外来においてエビデンスに基づき集学的に行っています。

④緩和医療

癌終末期の患者さんに対しては専門の緩和ケアチームと連携を図り、疼痛緩和、精神的支持、また患者家族のケアも含めた治療を行っております。

潰瘍性大腸炎(UC ulcerative colitis)

概念

Crohn病とともに炎症性腸疾患(IBD)に分類される疾患で、主に大腸粘膜を侵し、潰瘍やびらんを形成する非特異性の炎症性疾患です。
病変は直腸から発症し、全大腸に広がっていきます。
発症すると、緩解,再燃を繰り返すことが多く、708年で癌化することがあるため、緩解維持のための治療が必要となります。
1973年より特定疾患治療研究対象疾患の1つに指定されております。
診断された場合、保健所にて続きすると医療費の援助が受けられます。

症状

軽症例では下痢、粘血便などが起こり、重症化すると発熱、腹痛、血性の下痢、体重減少などが出現します。
さらに、関節炎、虹彩炎、皮膚症状(結節生紅斑、壊疽生膿皮症)などの腸管外合併症を伴うことがあります。

疫学

軽症例では下痢、粘血便などが起こり、重症化すると発熱、腹痛、血性の下痢、体重減少などが出現します。
さらに、関節炎、虹彩炎、皮膚症状(結節生紅斑、壊疽生膿皮症)などの腸管外合併症を伴うことがあります。

診断

軽症例では下痢、粘血便などが起こり、重症化すると発熱、腹痛、血性の下痢、体重減少などが出現します。
さらに、関節炎、虹彩炎、皮膚症状(結節生紅斑、壊疽生膿皮症)などの腸管外合併症を伴うことがあります。

注腸X線検査

注腸X線検査:ハウストラが消失し,腸管は狭小化しており,辺縁には棘状突起がみられます.

大腸内視鏡検査

大腸内視鏡検査:強い発赤を呈し,不整な潰瘍が広がっていて,膿性粘液が付着しています.

重症度

発熱、血便回数、便回数、腹痛、頻脈などの身体所見、血沈などの採血所見と、内視鏡所見で評価します。

治療

潰瘍性大腸炎は再燃緩解型(緩解再燃を何度も繰り返す)、初回発作型(初回発症後、再燃しない)、慢性持続型(6ヶ月緩解せず下血が継続する)、急性電撃型(強い症状が急激に出現する)に大別されます。
原則的には各種薬剤による内科的治療が行われますが、重症の場合や薬物療法が効かない場合には外科的治療(手術)が必要となります。慢性持続型、急性電撃型は手術が必要になることが多いです。

内科的治療

軽症、中等症例では5-ASA製剤を投与します。
効果がなかったもしくは重症例の場合、副腎皮質ステロイド薬にて
緩解導入を行います。ステロイドが無効であった場合は、シクロスポリン、タクロリムス等の免疫抑制剤、インフリキシマブ(抗TNFα抗体製剤)あるいは血球成分除去法が行われます。

外科的治療

内科的治療の効果が認められない場合、もしくは症状が増悪した場合には手術適応を検討します。
手術の絶対適応(絶対手術が必要な状態)としては中毒性巨大結腸症、大腸穿孔、大量出血、大腸癌などです。相対適応(絶対ではないが手術が望ましい状態)として内科的治療が無効な場合、また、前癌病変(癌になる手前の病変)であるdysplasiaを認める場合も相対適応となります。
基本術式は大腸全摘出術、回腸肛門吻合術もしくは回腸肛門管吻合術です。癌化した場合には炎症粘膜のどの部位からも発癌する可能性があるため、一般的な大腸癌と違い、病変のみの切除ではなく、大腸全摘出術を施行することとなります。

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎

癌・dysplasia合併UCに対する大腸全摘回腸ハV肛門吻合術

クローン病とは

Q1どのような病気ですか?

クローン病とは原因不明の病気であり、潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患
(Inflammatory Bowel Disease:IBD)に分類され、厚生労働省の特定疾患治療研究対象疾患に指定されています。遺伝的素因や血流障害などが原因としてあげられていますがはっきり証明されたものはありません。
免疫系の異常反応が一因と想定されています。

Q2 患者数はどのくらいですか?

年々増加の一途をたどっており、2009年には30891人の患者さんが本邦では登録されています。それでも欧米に比べると10分の1前後です。
主に10020歳代の若年者にみられ、男性と女性では2:1で男性に多く見られます。

Q3 どのような症状ですか?

口腔内から肛門まで全消化管に発生し、中でも、特に小腸や大腸に炎症や潰瘍が起こることが多く、小腸の末端部が好発部位とされています。
症状は腹痛、下痢、血便、発熱、肛門病変、体重減少、全身倦怠感などが主なものです。肛門病変としては痔瘻、裂肛、肛門周囲膿瘍などが生じます。他にも口腔内アフタ、関節炎、虹彩炎、結節性紅斑などの皮膚の合併症を生じることもあります。

痔瘻の画像所見

クローン病

痔瘻部のMRI画像

クローン病

肛門内から臀部まで通り道ができている.

Q4 検査と診断はどのようなものですか?

採血検査では貧血、白血球減少、血小板増加、赤沈亢進、CRP上昇、低タンパク、低コレステロール血症、低ナトリウム血症などがみられます。
大腸内視鏡検査では、アフタ様潰瘍、縦走潰瘍、敷石像、病変が非連続性に飛び飛びに現れる傾向がある飛び越し病変を確認することができ、生検結果にて非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫が証明されると、より確実になります。
小腸造影検査では狭窄病変がないかを確認します。
注腸造影検査では非連続性病変、腸管狭窄、腸管肥厚などを確認します。

大腸内視鏡検査

大腸内視鏡検査

縦走潰瘍

アフタ様潰瘍

アフタ様潰瘍

敷石像

敷石像

小腸造影検査

小腸造影検査

狭窄病変が見られる

注腸造影検査

小腸造影検査

横行結腸に狭窄性病変がみられる

Q5 重症度判定はどのようにするのですか?

クローン病の重症度判定にIOIBD指数というものがあり、クローン病の炎症の状態を見ることができます。10項目あって、1項目1点とし、合計点数を
スコアとし、点数が高いほど重症です。項目は以下の通りです。

1.腹痛(
2.1日6回以上の下痢や粘血便(
3.肛門部病変(
4.瘻孔(
5.その他の合併症(結節性紅斑、ぶどう膜炎、関節炎など)(
6.腹部腫瘤(
7.体重減少
8.38℃以上の発熱(
9.腹部圧痛(
10.貧血(10 g/dl以下の血色素)

寛解 :スコアが0または1で、血液検査で赤沈値、CRPが正常化した状態
再燃 :スコアが2以上で、赤沈値、CRPが異常。

Q6 どのような経過をたどるのですか?

再燃、再発を繰り返し、慢性の経過をたどります。
完全治癒は困難であり、寛解時期を維持することが大切です。

Q7 治療法はどのように行いますか?

栄養療法やサラゾピリン、ペンタサ、ステロイド剤、インフリキシマブ(レミケード)などの薬物治療を中心とした内科的治療が一般的です。
特に、レミケードの導入により内科的治療の結果が向上しています。
腸管狭窄、穿孔、大量出血、膿瘍形成が生じた場合は手術治療が必要になることがあります。
食事は低脂肪、低残渣の食事を推奨します。
またクローン病では癌を合併することも多く、定期的な検査が必要です。

大腸憩室症

大腸憩室は大腸壁の筋肉が欠損した部位から粘膜および粘膜下層が嚢状に漿膜側に突出した状態で(図1)、内視鏡で見ると凹みとして観察されます。大腸憩室は多発することが多く、炎症、出血、穴が開く、狭くなるなどの原因となります。大部分の人が無症状のまま経過すると考えられますが、最近、食生活の欧米化と高齢化により増加し、手術が必要となる患者さんも増えています。憩室の原因として食物繊維の摂取低下や便秘等による内圧亢進が憩室形成を促進すると言われています。欧米では憩室症の患者が日本よりずっと多く、食物繊維の少ない食習慣が一因と考えられています。

日本では、右側の大腸の憩室が約70%、左側が15%、全体にできるのが15%程度といわれています。高齢者では、左側の憩室の頻度が増加します。特に左側のものは炎症を起こすことが多く、炎症を繰り返したり、穿孔を起こしてこじれることが多いのが特徴です。重症では、S状結腸にできた憩室が膀胱と癒着してつながってしまうS状結腸膀胱瘻を起こす症例もあります。炎症が軽度の場合は抗生物質などで治療できますが、繰り返す例や重症化したもの、腹膜炎を起こしたものは、手術で切除する必要があります。一方、憩室出血は右側の憩室からのことが多いと言われています。

憩室出血

腹痛を伴うことなく突然に鮮やかな出血あるいは赤黒い出血を多量に認めた場合には、憩室出血を疑います。解熱鎮痛薬や抗血栓剤を投与されている場合には強く疑う必要があります。内視鏡検査時には憩室出血の4分の3は自然止血するため、どこから出血したか不明なことも多く、そのまま軽快してしまうこともあります。しかし、一方で約4割が再出血すると言われており、出血量が多く輸血を必要とする場合もあります。検査時にまだ出血している場合は内視鏡で止血を試みますが、大量出血によりショック状態にあるような場合には、腹部血管造影などを用いて活動性出血を確認して選択的動脈塞栓術による止血処置を試みる場合もあります。大出血で止血困難な場合や一旦止血しても、また出血を繰り返す場合は、手術で憩室のある腸管を切除する必要があります。

診療実績

2009-2011年の3年間における帝京大学下部消化管外科の憩室関連疾患の実績は、総入院件数44例(右結腸16例、左結腸24例、全結腸4例)で、うち手術を25例に実施。原因別手術件数としては、憩室炎の穿孔が16例(右結腸1例、左結腸15例)、瘻孔が4例(全部左結腸)、憩室出血4例(すべて右結腸)、その他1例となっています。
急に強い病状を呈して緊急手術となる患者さんが殆どです。大腸の憩室を大腸癌検診等で指摘された場合は、食物繊維を摂取し、適度な運動をして便秘にならないようにすることが重要です。便秘症の人は便通改善薬を用いるのもよいでしょう。

大腸憩室症

虫垂炎

急性虫垂炎は、虫垂の急性炎症で、外科手術の対象となることの多い疾患です。虫垂は盲腸の先に位置し、成人虫垂は、平均長8.5cmで、消化管の中で最もリンパ組織が発達した臓器とされています。俗に「盲腸」あるいは「盲腸炎」で、「盲腸を切った」というのは間違いで、正しくは、「急性虫垂炎」で「虫垂切除術を受けた」ことを指しています。
急性虫垂炎は10~20才台に多いとされていますが、小児から高齢者まで幅広い年齢層に認められます。特に、小児、高齢者、妊婦では診断が遅れることがあり、注意が必要です。
食物残渣、糞石などの異物や、虫垂粘膜のリンパ組織の肥大などにより虫垂が閉塞し、粘膜の循環障害が起こり、腸内の細菌感染が生ずるために起こると考えられています。

症状、経過

典型的には、食欲不振、上腹部あるいはへその周りの軽い不快感~痛みで始まり、ついで軽度の吐き気や嘔吐症状が見られます。数時間後には,右下腹部への痛みの移動がみられます。咳の際の右下腹部の痛み,軽度の発熱(38℃程度までが多い)を認め、この頃には血液検査で白血球増加などがみられます。さらに悪化して腹膜炎を起こすと、排ガスの停止、腹部膨満を認め、お腹全体が痛くなります。よく「右の下腹部が時々ちくちくするが、虫垂炎ではないか」との質問を受けることがありますが、いきなり右下腹部が痛くなることは希ですし、慢性的な症状を呈する疾患ではありません。ただし、虫垂炎の症状は人によって違いが大きいので注意が必要です。診断は、診察所見、血液検査、超音波やCT検査によって行われます。炎症を放置して我慢しすぎると腹膜炎になって命に関わりますので、早めに医師の診察を受けることが重要です。