虚血性腸炎
〈虚血性腸炎とは?〉
大腸の血流障害により大腸粘膜に炎症や潰瘍が発症し、突然の腹痛と下痢・下血をきたす疾患です。本疾患は粘膜への血流障害に基づく疾患であり、血管造影で血流途絶像が認められるような腸間膜動脈閉塞症とは異なる病気です。
この疾患は血管側因子と腸管側因子それぞれの問題が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
血管側因子としては動脈硬化や血栓症等が挙げられ、高齢者や糖尿病、高脂血症、膠原病、血管炎等の血流低下や動脈硬化をきたす基礎疾患をもつ人に発症しやすいと言われています。
腸管側因子としては慢性便秘や浣腸などによる腸管内圧の上昇が挙げられます。
大腸は主に上腸間膜動脈と下腸間膜動脈から血流を受けていますが、脾弯曲部から下行結腸は両者の支配領域の境界部分であるため、構造的に虚血をきたしやすいと言われています。
高齢者に多い疾患ですが、便秘のひどい若い女性にみられることもあります。
〈症状は?〉
突然の下痢や下血、左下腹部痛が主な症状ですが、嘔気・嘔吐、発熱をきたすこともあります。
重症度から一過性型、狭窄型、壊死型の3つに分類されます。
一過性型は数日で症状がおさまり、短期間で正常な大腸に回復します。下血が認められるため重い病気ではないかとびっくりされる患者さんが多いですが、多くは軽症の一過性型です。
狭窄型は症状が長引き、治癒するまでに2~3ヶ月を要し、血流低下をきたした部分は狭くなったまま治癒します。狭窄解除のための手術が必要になることもあります。
壊死型は血流が改善せず腸管が壊死し、症状が急速に進行して腹膜炎や敗血症性ショックを併発する恐れがあるため緊急手術の適応となります。
〈検査・診断は?〉
症状から診断できることも多いですが、確定診断には大腸内視鏡検査が行われます。
大腸内視鏡検査では下図のように、粘膜の浮腫性変化、暗赤色の発赤・膨隆、びらん、不整潰瘍、縦走潰瘍等を生じ、健常部との境界が明瞭なことが特徴的です。
大腸内視鏡検査:縦走傾向のある発赤性変化や浮腫性変化がみられます。
注腸造影検査では下図のように、拇指圧痕像(thumb printing)と言われる特徴的な所見を呈します。
注腸造影検査:粘土を拇指で押した痕のようにみえるため、拇指圧痕像(thumb printing)と言われます。
鑑別疾患としては薬剤性腸炎、感染性腸炎、クローン病などが挙げられます。
血液検査では白血球・炎症反応の上昇、赤沈の亢進などがみられます。
〈治療は?〉
一過性型の場合、基本的には入院し、腸管の安静と全身状態を保つために対症療法を行います。
絶食、輸液、場合によっては抗生剤も投与し数日間経過をみます。
腹痛に対しては鎮痙薬を投与します。
症状が軽快し、炎症が落ち着いたところで食事再開となります。
狭窄型で症状が遷延する場合は手術が必要になる場合があります。
狭窄型の手術標本:腸管は狭窄を呈しており、縦走潰瘍がみられる。
壊死型は稀ではありますが、症状が急速に進行して腹膜炎や敗血症性ショックを併発する恐れがあるため緊急手術の適応となります。
近年は、一過性型、狭窄型を狭義の虚血性大腸炎としている場合も多くなっています。