大腸憩室症
大腸憩室は大腸壁の筋肉が欠損した部位から粘膜および粘膜下層が嚢状に漿膜側に突出した状態で(図1)、内視鏡で見ると凹みとして観察されます。大腸憩室は多発することが多く、炎症、出血、穴が開く、狭くなるなどの原因となります。大部分の人が無症状のまま経過すると考えられますが、最近、食生活の欧米化と高齢化により増加し、手術が必要となる患者さんも増えています。憩室の原因として食物繊維の摂取低下や便秘等による内圧亢進が憩室形成を促進すると言われています。欧米では憩室症の患者が日本よりずっと多く、食物繊維の少ない食習慣が一因と考えられています。
日本では、右側の大腸の憩室が約70%、左側が15%、全体にできるのが15%程度といわれています。高齢者では、左側の憩室の頻度が増加します。特に左側のものは炎症を起こすことが多く、炎症を繰り返したり、穿孔を起こしてこじれることが多いのが特徴です。重症では、S状結腸にできた憩室が膀胱と癒着してつながってしまうS状結腸膀胱瘻を起こす症例もあります。炎症が軽度の場合は抗生物質などで治療できますが、繰り返す例や重症化したもの、腹膜炎を起こしたものは、手術で切除する必要があります。一方、憩室出血は右側の憩室からのことが多いと言われています。
憩室出血
腹痛を伴うことなく突然に鮮やかな出血あるいは赤黒い出血を多量に認めた場合には、憩室出血を疑います。解熱鎮痛薬や抗血栓剤を投与されている場合には強く疑う必要があります。内視鏡検査時には憩室出血の4分の3は自然止血するため、どこから出血したか不明なことも多く、そのまま軽快してしまうこともあります。しかし、一方で約4割が再出血すると言われており、出血量が多く輸血を必要とする場合もあります。検査時にまだ出血している場合は内視鏡で止血を試みますが、大量出血によりショック状態にあるような場合には、腹部血管造影などを用いて活動性出血を確認して選択的動脈塞栓術による止血処置を試みる場合もあります。大出血で止血困難な場合や一旦止血しても、また出血を繰り返す場合は、手術で憩室のある腸管を切除する必要があります。
診療実績
2009-2011年の3年間における帝京大学下部消化管外科の憩室関連疾患の実績は、総入院件数44例(右結腸16例、左結腸24例、全結腸4例)で、うち手術を25例に実施。原因別手術件数としては、憩室炎の穿孔が16例(右結腸1例、左結腸15例)、瘻孔が4例(全部左結腸)、憩室出血4例(すべて右結腸)、その他1例となっています。
急に強い病状を呈して緊急手術となる患者さんが殆どです。大腸の憩室を大腸癌検診等で指摘された場合は、食物繊維を摂取し、適度な運動をして便秘にならないようにすることが重要です。便秘症の人は便通改善薬を用いるのもよいでしょう。