単孔式腹腔鏡下虫垂炎手術
虫垂炎の外科治療に近年、大きな変革の波がありました。それは腹腔鏡下手術で、さらにそれを進化させた単孔式腹腔鏡下虫垂炎手術です。腹腔鏡下手術のメリットは、従来の開腹手術と比べて①傷が小さい②術後の痛みが少ない③日常生活までの復帰が早い④術後の癒着が少ないなどです。
しかし虫垂炎に対する手術では、胃や大腸を切除する開腹手術と違い従来の開腹手術でもきずは5cmほどで決して大きいわけでなく、痛みも強くありません。したがって腹腔鏡下手術の必要はないという意見もあります。
しかし5cmの小さなきずからは虫垂や盲腸、近傍の小腸までは観察できますが、おなか全体を見ることは不可能です。
腹腔鏡下手術では開腹手術よりもさらに小さなきずからおなか全体を観察することができます。虫垂炎と似た症状の疾患として結腸憩室炎、婦人科疾患、メッケル憩室炎などがあります。
腹腔鏡下手術は単にきずが小さいことのみでなく、確実におなかの中全体を観察することにより、鑑別診断を確実にできるメリットがあります。
そして2009年ごろから急速に普及してきた手術が単孔式腹腔鏡下手術です。これは通常の腹腔鏡下手術では複数の孔が必要ですが、単孔式では腹腔鏡と専用の器具を1つの孔からおなかの中へ挿入し、手術を行います(図1、2)。
単孔式腹腔鏡下虫垂炎手術の長所は、腹腔鏡下手術が持つ様々な長所に加え、整容性にも優れていることです。
多くの虫垂炎はおへそのきずから摘出可能で、病変を取り出すためにきずの大きさを延長することはありません。きずはおへそに1ヵ所のみですので、数か月経過すれば手術したことさえわからなくなります(図3)。
単孔式手術の難点は、技術的に高難度の手技であることです。通常の腹腔鏡下手術自体も専門施設での十分なトレーニングが必要ですが、この単孔式では同一箇所から専用のカメラ(腹腔鏡)、専用器具をおなかの中に入れて行う方法のため、細かいノウハウやさまざまな工夫(図4)が必要となります。当院では日本内視鏡外科学会の腹腔鏡下手術技術認定医の管理下に、症例を慎重に選択し、安全に施行しています。
最近では患者さんの病状によりますが、一時的に炎症を鎮静化させた後の準待機手術や緊急手術でも単孔式虫垂炎手術を行っております。
この単孔式腹腔鏡下虫垂炎手術についてのお問い合わせは、帝京大学医学部附属病院外科外来(火曜日午後担当:橋口、金曜日午前担当:藤井)にて承っております。